名前:ふゆき 投稿日:2014-01-29
十年以上も前の話。
友人には話したことがあるがUPは初めてだし、つまらないかもしれないが聞いてください。
俺は当時、東京のゴミ埋立地で土木の工事をしていたんだ。
そうしたある日、一羽のカラスが現場に遊びに来るようになったんだ。
ゴミ埋立地という立地上、野生のカラスはそこらじゅうにいるわけだが、
どうやらソイツは現場付近の清掃局なんかで飼われているようで、日中だけここに遊びに来ているみたいだった。(夕方になると寝ぐらがあるであろう方向に飛んで帰っていくんだ)
体はまだ少し丸みを帯びていてまだ完全な大人ではなく、おそらく飛び始めて1、2か月程度の感じ。
ヤツは度々休憩所内に侵入し、職人の弁当を漁るため不評を一身に集めたカラスだったが、
あるとき、漁りを目撃した人物に油性ラッカースプレーで威嚇され、羽には黄色のスプレー跡があった。
俺はと言えば、そんな奴とは妙に気が合い、休憩時にはジュースを飲ませたり、
遊んでやったりしていてついには手乗りカラスとすること成功したんだ(笑)
SPONSORED LINK
ちょっと脱線するが、他の鳥なんかもそうかもしれないが、カラスの凄いところは人の顔をちゃんと見分けているところ。
人間にとっては悪さ(当の本人(鳥)は遊びの延長なのだが)をするため、他の人間にはいつも苛められていたため、俺のところにしかやって来ない。
苛めてる人間と俺をどこで見分けてるのか?
ヘルメット被ってるし、現場には100人位いるし。背格好?仕草?
良く解らないが、毎日上空から俺を見つけて飛んでくるんだ。
例を挙げると、朝礼が終わり、現場内を俺が歩いていると超低空で掠める距離を後ろから飛んできて、2~3m前でふんわり着地。
後ろを振り返り、『今日も来ちゃった』的な顔をいつもしていた。
オスなのか、メスなのかも解らなかったが俺は一方的に『カー子』と名付け可愛がっていた。
カー子はとにかく悪戯好きで、相当のかまってちゃん。
いつも俺の後ろをついて回り、ある日俺が、発電機に軽油を入れていると『あっち行け!』と言ってもその軽油をゴクゴク飲む。
ある時は現場資材で絶対に体に悪いものを『食べるな!』と言って手で払いのけてもムシャムシャ。
その時は流石に2日位来なかったっけな(笑)
現場が動いていた3か月程度の間、
殆ど毎日カー子は一匹で俺のところに遊びに来ていた。
その頃になれば俺もカー子を信頼していたし、向こうもそうであったと思うんだ。
種を超えた友情ての?つたない文章では伝わらないかもだけど。
だが現場が完工に差し掛かったある日を境に、あれほど毎日来ていたカー子が突然顔を見せなくなったんだ。
病気?もしかして死んだ?俺はずっと心配していたが、それ以来姿を見ることはなくただ平凡な日々が過ぎて行った。
やがて、竣工検査も終わり、本当に現場が最後の日。
カー子のことを気に掛けながらも日々の忙しさで彼女の存在を忘れかけていたのだが、
陽も傾きかけた夕暮時ふと前方を見上げたら。。。
一羽のカラスが突然飛んできて10m程度あるであろう前方の足場の真ん中位にふわりと着地したんだ。
カー子?違う?
ちょうど逆光だったため見えづらかったが、目を細め確認してみると、羽にはあの時の黄色のスプレーが付いていた…
すると間もなく、他の野生カラスが10羽位いたかな、こちらも突然飛来し、カー子よりも足場の上のほうに止まって
彼女を含め、その野生カラスの全部が俺をじっと見つめている変な状態になった。
あの時流れた不思議な空気はなんだったのだろう?
凝視されていることを怖いとは微塵にも思わなかった。
とにかく俺は久々に逢ったカー子の姿に釘付けになり、その小さな瞳をただ見つめ返していた。
『カー子!』
ふと、俺は普段と変わらない呼び方で彼女を呼んだ。
いつもなら俺のそばにふわりと着地して、なにか悪戯チックなことをし始めるが、
その時は足場の上から動かず、じっと俺を凝視するだけ。
その間、他の10羽程度の野生カラスもずっと俺を見ている。
普通であれば心地良いものではないのかもしれないが、その時は何故か不思議で嬉しい気分でいっぱいだった。
『カー、カー、カー!』
どのくらい時間が経ったか、その場から動かないカー子が突然、力一杯俺に向かって鳴き出したんだ。
『仲間が出来たの!そちらにはもう行けないけどいままでありがとう!』
頭の奥のほうで聞こえた感じがした。
頭おかしいかもしれないが、その時俺は瞬時にカー子のその言葉を理解したんだ。
そう鳴くと、カー子は一度も俺のそばに来ることはなく、振り返りもせず、
夕暮れの中、仲間達と共にオレンジ色の空の中に消えていった。
今思っても、映画をみているような素敵な光景だった。
俺は号泣しそうだったが、彼女の旅立ちが誇らしく、そしてとても嬉しかったんだ。
人間の匂いが付くとだめだって聞いたことある。そして直感だが、彼女にはもう二度と逢えないと思ったんだ。
ずっと苛められて一人で遊びに来てたカー子。
鳥として生きる道を見つけたカー子。
なぜしばらく遊びに来なかったのか?
あの時、あの時間に偶然俺を見かけたのか?
それとも計算?現場の最終日に?
疑問は尽きないし、想像の範疇だけど、あの時の遭遇は彼女なりの最後の悪戯であったと思うんだ。
あの日の出来事はカー子との繋がりを一瞬で理解した不思議な体験でした。
そして、あの出来事があったから、今俺はペットを含む動物には優しい気持ちで接することができていると思っている。
あのとき仲間にどんな話をしたんだ、お前(笑)
あと、もしオスだったらご免な。