名前:あい 投稿日:2018-01-07
これはわたしが社会人になる頃のお話です。
母と喧嘩をした。わたしが庭で拾ってずーっと育ててきた猫が原因だった。わたしは大学4回生でもう少しで社会人になる。仕事はアパレル業界。しかし、そうなると帰りが遅くなり猫の世話をする人がいない。母は猫が大嫌いでわたしの猫とも触れ合わない。なので、母に猫の世話をお願いすることはできない。
飼い猫の名前はチャス。キジ柄のメス猫だ。
「世話ができひんねんやったら拾ったらあかん!きちんと最後まで面倒みやなあかんやん!!」
わたしはその頃、いろいろなことでイライラが募っていたのもあり母と言い合いをしてしまった。
「そんなん分かってるよ!でも、仕事やねんやからしゃーないやん!わたしが居てないときだけチャスのことみといてほしいねん。ずっとチャスの世話してほしいって言ってるんちゃうやん!」
今、思い返せばわたしはあまりにも子供すぎることを母に言っていたなと思う。
結局、母との言い合いは父が止めるまで
夜遅くまでつづいた。
次の日。母とは口をきかずに1日が過ぎた。
夜、わたしはあることを決意した。
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「そうや。家、でたらいいねん。」
思い立ったわたしは親に内緒で1人でペットと住めるマンションを探し始めた。
マンションを探し始めて思ったのは、マンションは思っていたよりも家賃が高い・ペット可のマンションが少ない・駅近になればなるほど家賃は跳ね上がる。正直、なめていた。こんなにもお金がかかるとは思った。しかし、かわいい飼い猫のためにわたしはマンションと契約した。生活はコツコツと高校生から貯めていた貯金をくずしていこうと考えた。
そして、親に報告する日がきた。
親にひたすら怒られた。勝手に家をでることやマンションも契約してしまったことなど、全てを怒られた。
でも、わたしはそれでも言い続けた。
「もう決めたことやから。わたしも社会人なるし、チャスのご飯とかはいろいろ考えがあるから大丈夫。引越しする日はまた言うから。」そう言って部屋に戻った。チャスが扉のまえでちょこんと座り、ニャーと鳴いていた。
「もう少ししたらわたしらだけで住むんやで!絶対に楽しいやろな!!チャスも楽しみやろ??」わたしはチャスにずーっとそんなことを話していた。そのとき、母が部屋に入ってきた。あれから母とちゃんと話すのはこれが初めてだ。
「あんた、ほんまにいいの?1人でちゃんとやっていける自信あんの?お金は?」母にいろいろと聞かれた。
わたしはだんだんとイライラしてきて、とっさに母にこんなことを言ってしまった。
「お母さんがもっとチャスと触れ合ったり、仲良くしてくれへんからこうなったんやんか!全部、お母さんのせいやん!ちょっとだけでもチャスの世話のこと助けてよ。」
母はずっと黙ったままだった。同時に悲しいような寂しいような、なんとも言えない表情だった。結局、母とはわたしが引越しをする日まで口をまともにきかなかった。
一人暮らしをはじめて、1週間がたとうとしたとき、わたしの部屋の扉のドアノブに袋がぶらさげられていた。わたしはドキドキしながら中をみた。中には、猫のおやつやキャットフードなどがたくさん入っていた。わたしはきっと父が黙って持ってきてくれたんだろうと思い、父に電話するとそんなものは知らないと言われた。母がもってきた可能性もあったがそれはないとわたしは思った。普段から猫が大嫌いなのに、こんなことはするわけがないと。じゃぁ、一体だれが?。。。
結局、送り主はわからないまま1週間がすぎた。
するとまた、ドアノブに袋がぶらさがっていた。
「まただ。だんだん怖くなってきたな。」わたしは少しだけ恐怖をおぼえた。でも、捨てるのはもったいないと思い、わたしはチャスに袋に入っていたご飯をあげた。わたしが最初にエサをちょっと食べてみたがなんら変わりはなかったし、チャスが体調をわるくしたりしなかったので、安全なものだと思った。この謎のプレゼントのおかげでチャスにはいいご飯をあげることができた。このプレゼントは1週間がたつごとにドアノブに絶対にかけてあり、中はお決まりの猫のご飯とおやつが入っていた。
そしてわたしはある日、誰かもわからないプレゼントを贈ってくれた主宛の手紙をドアノブにぶらさげて、仕事にでかけた。
夜の9時すぎあたり。わたしは帰宅し、ドアノブをみるとまたプレゼントがぶらさがっていた。しかも、手紙がない。主が持っていったのであろう。わたしは返事の手紙がくるのは楽しみだった。そして、1週間がたち、またドアノブにはプレゼントが。部屋に入り袋をみると中に1通の手紙が。
わたしは中をみた。手紙は「親愛なる頑張り屋さんのあなたへ」から始まる。
「寒い日がつづきます。体調をこわされていないですか?お変わりはありませんか?新社会人として忙しい日々が続いていると思います。きっと、苦労してることのほうが多いと思います。でも、負けずにあなたはあなたの思うように仕事をやり遂げてください。あなたが頑張り屋さんということはよく知っています。弱音を吐かず、1人でなんでもかんでも頑張ろうと無理してしまうとこも分かっています。もし、立ち直れないときはあなたのそばにはチャスがいます。チャスに甘えてください。きっとチャスはあなたが実家の部屋でチャスに話しかけるときのように耳をピンと立てながら、話をきいてくれるはずです。でも、もしも、あなたがわたしを許してくれるならチャスを連れて実家でいろんな話をきかせてください。わたしもあなたとチャスに会いたいです。離れてみて初めて寂しさがわかるというのは本当の話だったようです。そして、チャスと距離を置き続いて、触れ合おうともしなかったことを今になって後悔しています。猫が嫌いだからとあまりにも子供じみたことをしてしまいました。本当にごめんなさい。わたしもチャスと距離をちぢめていけるように頑張っていきます。では、お身体に気をつけて。母より」
わたしはチャスをキャリーに入れ、必要な荷物をもって車を走らせた。わたしは泣きながら運転していた。母に謝らなければならないことがある。たくさん、ごめんなさいを言わないといけないことがある。チャスのこともいっぱい聞いてほしい。母とチャスは仲良くなれるかな?いろんなこと考えながら実家へと急いだ。玄関をあけて、リビングに行くと父と母がびっくりした顔で出迎えてくれた。
「お母さん、わたしもほんまにごめんなさい。ずっと意地はって、謝らずに家でていってほんまにごめんなさい。」
母は泣いていた。わたしも泣いていた。父にキャリーから出してもらったチャスがニャーと鳴くと、一度も近寄ったことがない母のそばにいき足元でゴロンとし、甘えだした。母はすこし怖がりながらチャスを撫でた。チャスはゴロゴロと喉をならして母に甘えていた。わたしはその風景が嬉してくて、母に近づいてこう言った。「ただいま。」チャスも母に撫でられながら、ニャウニャウと鳴いている。
母はチャスとわたしを見ながら、「おかえり。」と言ってくれた。そして、母が「わたしもチャスに会いに顔だしにいこかな。おやつあげてみたいし。」と、照れながら言ったのを聞いてわたしは嬉しくて幸せだった。
チャスはどう思っているのかな?母と仲良くしてくれるかな?今よりももっと距離をちぢめていけるかな?
相変わらずチャスは何食わぬ顔でニャウニャウ鳴きながら、うっとりした顔で母になでられていた。
きっと大丈夫。わたしはそう思った。久しぶりに家族といて幸せだなと感じることができた瞬間だった。