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喪服は新調しないよ。

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名前:rytz 投稿日:2022-04-14

僕は幼い頃に父親を亡くし、ずっと母子家庭だった。
母親には苦労かけたと思うが、ひとりっ子だった僕を大学まで通わせてくれた。

大学に入って、やがて就職活動の時期になったが、僕の成績も悪かったし、いわゆる就職氷河期だったし、いくつもの会社に入社希望を出しても、なかなか内定を貰えなかった。

さんざん面接を繰り返し、やっと、ある会社の内定が決まった。
だけど、その会社は地元に事業所がなく、親元を離れて暮らすことを、余儀なくされる会社だった。
母親が一人暮らしになってしまうことを戸惑ったが、母親に相談すると、

「男ん子なら、家を出て行くんは当たり前やけんね。」

あっさり了承された。

大学を無事卒業して、4月になって、晴れて社会人になれた。

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新人研修とか、部署配属とかあって、月末近くに初任給が支給された。
僕は、初任給で母親に何か買ってあげようと思った。
何が欲しいか聞こうと、母親に電話したら、

「そんなんいらんけん、自分の喪服ば買い。」

えっ、喪服?

「あんた、喪服持っとらんやろ。いつかは絶対要るけんね。」
「普段の時やったら、「喪服買おう」とか思わんやろうもん?」
「ばってんが、本当に喪服が要るときは、急には買えんけんね。」
「こういう機会にこそ、買っとくとがよかとよ。」

悩んだけれども、母親の言う事は一理あると思った。
確かに、普段何もない時に「喪服を買おう」とは思わない。

僕はその週末、まだ慣れない街の百貨店で喪服を買った。
段々と新しい生活に馴染んできた頃、会社で気になる人がいた。

ファッションモデルのような長身スリムで、ロングヘアーが似合う人。
僕は低身長でブサイクだし、高嶺の花のような人。
部署は違うので、顔を合わす機会は週に二、三度くらいだったけど、食堂とか休憩室で一緒になると、年が近いからか気さくに話しかけてくれて、そのうち、休憩室でよく会うメンバーで飲みに行ったりもして、いつの間にか、彼女との時間が僕の癒やしになっていた。

そんな感じで毎日は流れていたけれど、
だんだんと仕事量も増えて、残業も多くなって、、
家に帰ったら、すぐ寝るだけの日も多くなって、、
週末もグッタリどころか、、休日出勤もあって、、、

そんな、、しばらくしたある日、地元の病院から電話があった。

母親が亡くなったと……

母親に「いつかは絶対要るけんね。」と言われた喪服の着初めが、
まさか、その母親の葬式になるなんて……

葬式や法要をすませて、僕は会社に戻った。
いつもは、すごく厳しい上司も、さすがに気遣ってくれたし、先輩や同僚も、みんなが気遣ってくれた。

でも、僕もそれ以上に気を遣ってしまって、「心配ないです」って、よそおうのが精一杯で逆に辛かった。

おまけに、あの彼女が会社を辞めてしまったらしい。

淡々と、仕事をこなしていくだけだった。
淡々と、時間が過ぎていくだけだった。

「ひとりっ子」が、本当に「ひとり」になったのが淋しかった。
悲しかった。辛かった。苦しかった。

そんな無機質な日を過ごしていたある夜、電話が鳴った。

ビックリした……………あの彼女からだ。

「ごめんなさい、たまたま、○○さんから聞いたんよ。」
「お母さんが、亡くならはったって。」
「何て言っていいか、わからへんけど、私もひとりっ子やから、」
「すごい淋しいんやろうなと思うて、電話したんよ。」

僕は、大丈夫、大丈夫って言い続けるだけで、涙が出っ放しで、会話にならなかった。彼女も泣いていた。

それからは、ちょくちょく彼女と電話するようになった。
その時とは違って、たわいもない話ばっかりだったけれど。
やがて、休日には二人で食事に行ったりもすることも。

母親が亡くなって、ひとりになって、いろんな人が気遣ってくれたけど、
彼女の、あの電話ほど心が震えたものはなかった。

いつしか僕は、彼女とずっと一緒に居たいと思った。

そうして、僕は彼女と結婚した。
もうすぐ、結婚して20年になる。

今夜は、結婚20周年のお祝いやね。
病室だからね、ケーキとか音楽とかはNGだけど。

これ、プレゼント!!
前に欲しいって言ってたブランドのスーツだよ。
上着、ちょっと袖通してみる?

おーーっ、やっぱ似合うね、惚れ直すわ。。。

また「ひとり」になるのは、嫌だからね。
もう、喪服は新調しないよ。

Oh my darling, you were wonderful tonight.

喪服は新調しないよ。 現在 231pt 泣けた

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