名前:希里 投稿日:2021-09-13
新卒で働き出した年の「母の日」のこと。
あの日はいつもどおりせわしなく残業をこなしていつもどおり一番遅い帰宅で、ありふれた一日だった。
就寝準備も終えてのんびり過ごしてると部屋に訪ねてきた弟。
また、飲み会で金欠で「お金貸して」かな・・・?
「ねぇさん、手、出して。」
手相占いにでもハマったのか?と手を出して見せる。
どこからかハンドケアの道具を取り出してきて私の荒れた手にマッサージしながらケアをしていく。
驚いて弟を見ると唇をかみしめて今にも泣きそうになってる。
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黙ってされるまま数分。
開放された手で弟の頭を撫でてあげる。
途端に泣きじゃくりながら胸に飛び込んでくる弟。
「…かぁさん、ありがとう。」
言葉につまりながらもどうしてこんなサプライズをしたかを語り始めた。
・・・
大学に入る春休みに暇を持て余した彼は、運送のアルバイトを暇な時間にしていたらしい。
鈍るだろう体の維持と暇を潰すことが目的だったらしい。
そのアルバイトでまとまったお小遣いを手に入れた彼は育ててくれた人たちに恩返しをしようと思いつく。
祖父にはいいお酒を、父には卒業式に出向くためのスーツを。
そこで本来なら恩返しを終える予定であったが。
「入学早々の高熱を出した日、ねぇさんが迎えに来てくれて病院も点滴の間も付き添ってくれた。
その時優しく撫でてくれる手が荒れてることに気付いた。」
それからというもの、家でも学校の近くでよく立ち寄る私の配属先のお店でも働く姉の背中や手を見てこの背中と手に守られて育ったと気付いた。
そして、その恩返しをしようとずっと待っていたという。
今は家を離れてしまったけれど、毎年母の日になると直接届けに来た感謝のメッセージカードとハンドクリームが届く。