名前:無名さん 投稿日:2012-10-28
34 :人権擁護法案反対:2005/06/12(日) 22:05:10 ID:???
ニューヨークの郊外にその喫茶店はあった。
店の名前と
“水曜 定休日”
とだけ書かれたぶっきらぼうな看板の奥にひっそりと佇む。
店のマスターは無口で頑固。
その店のジュークボックスには
マスターが好きな、イギリス出身で世界的に大ブレークした、
今はもう解散してしまったグループの曲しかない。
ある年のちょうど今くらいの季節。
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その日は昼下がりに突然大雨が降り出した。 通りには濡れながら急ぎ足で行き交う人々。
その中の1人が店に入ってきた。
全身が濡れそぼり寒さでガタガタ震えるその男は、
マスターが好きなバンドのメンバーの1人だった。
おそらくその事に気付いたのであろう。
マスターは一瞬目を見張り動きを止める。
しかしすぐに手馴れた作業に戻り、
注文されたコーヒーと乾いたタオルを差し出す。
35 :人権擁護法案反対:2005/06/12(日) 22:05:46 ID:???
身体を拭き、眼鏡をふき、コーヒーを飲みながら店内を見回す男。
店の隅に佇むジュークボックスに目を留める。
自分がやっていたバンドの曲しか入ってない事に気付いた男は
照れくさそうにコインを取り出し、曲を演奏させる。
流れ出した曲を聴きながら男は
自分たちが走り抜けてきた青春時代を懐かしむように目を閉じ、
ゆっくりゆっくりとコーヒーを飲んだ。
何曲か聴き、コーヒーを飲み終えて店を出ようとする男に、
マスターは黙って傘を差し出した。
外はまだ雨が降り続いている。
男は受け取り、礼とともに笑いながら言った。
「今度雨が降ったら返しに来るよ。」
しかし、男が傘を返しに来ることはなかった。
それから数週間後、男は自宅前で凶弾に倒れたのだ。
それから20数年が経った今でも
その喫茶店は同じように看板の奥に佇んでいる。
年老いたが相変わらず無口なマスター。
ジュークボックスも同じバンドの曲ばかり。
店の中は何一つ変わっていないが、
看板に書かれてる文字はいつからか変えられていた。
“水曜 定休日
ただし、雨の日は営業いたします”