名前:恋人は名無し 投稿日:2011-01-15
386 :恋人は名無しさん :2007/02/04(日) 12:12:10 ID:qq2X+Oqv0
ちょっとだけ、独り言を言わせてください。
付き合って1年目。彼の友人からの電話で知った。
それまで病気ひとつしたことがなかった彼が、ある日突然倒れた。
2週間と2日の壮絶な闘病生活の後、29歳でこの世を去った。
彼は最後まで笑っていた。
抗ガン剤の猛烈な副作用に苦しみながらも、治療のため面会が制限されるまでの間、いつも笑顔で冗談を言っては、訪れる人たち皆を笑わせていた。
お互い、忙しい生活だった。
彼は朝4時に起きて仕事に行っていたし、私の仕事は不規則で、泊まりになることも珍しくなかった。
そんな私たちがどうやって出会い、どうやって愛を育んだのか・・・
考えれば考えるほど、あれは奇跡だったとしか思えない。
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でも、もっとたくさんの時間を過ごせたはずだった。と、今は思う。
急性骨髄性白血病。
もともと身体が丈夫だったのが災いした。
自分の体調が悪いことにすら気づかずに仕事に行った彼は、突然吐血して病院に運ばれた。
387 :恋人は名無しさん :2007/02/04(日) 12:14:18 ID:qq2X+Oqv0
彼が書き残したメモがある。
「わがまま」
たとえあと一日しか生きられないとしても
その一日を あなたと生きたい
偶然にも見つけてしまったとき、彼は痩せた顔を赤らめて照れていた。
どうしてこれが「わがまま」なの、と聞くと、彼はこう答えた。
「僕が死んだ後も○○は生きていかなきゃいけない。
だとしたら、いつまでも一緒にいたいなんて思うのは、僕のわがままなんだ」
涙が止まらなかった。でも、何も言えなかった。
最後の瞬間を、私は知らない。
馬鹿みたいに仕事していた。
心から愛した人が、この世を去ろうとしている時に、
私はニコニコ笑いながら、赤の他人のオムツを替えていた。
仕事が終わって駆けつけたときには、もう遅かった。
388 :恋人は名無しさん :2007/02/04(日) 12:16:20 ID:qq2X+Oqv0
「葬式」は行われなかった。
代わりに、彼の友人たちの手で、追悼式が行われた。
彼のご両親も快諾してくれた。
近くの文化会館を借りて行われた追悼式には、
一体どこで知り合ったのか、92歳のおばあちゃんから野球友達の小学生まで、300人を超える人が集まり、尽きないエピソードに笑い、そして涙した。
祭壇も、線香もない、お別れ会だった。
世の中、完璧な人間はいないと思う。
でも、彼ほど皆から愛された人を、私は他に知らない。
彼のルーツを知れば知るほど、今でもそう確信する。
その夏、私は病院を辞めた。
数ヵ月後、すっかり夏になった頃、彼の部屋を訪れた。
机の上に、貸したままのCDがあった。
タンスの引き出しには冬物のセーターがあった。
彼のお母さんと二人、涙がとまらなかった。
390 :恋人は名無しさん :2007/02/04(日) 12:19:19 ID:qq2X+Oqv0
追悼式の日、みんながそれぞれに思い出を語った。
最後に私は、走り書きしたメモを読んだ。
あなたと出逢ってから
思えばまだ たった一年しか経っていないんですね
そのわずか一年の間に
いろんなことがありました
あなたは どんな時も笑顔でした
最後の二週間は 特に濃密な時間でした
あなたが生きているというただそれだけのことを
こんなにも愛おしく感じたことはありませんでした
残された時の間に あなたは
できる限りのものを残そうとしてくれましたね
あなたの言葉を
あなたの笑顔を
そのすべてを 私は確かに受け止めました
だから
もうこれ以上 苦しまないで下さい
あなたは 充分すぎるほど頑張りました
だから ゆっくり休んで下さい
あなたの29年という時間は
ここで終わってしまうけれど
あなたの時間は
ここにいるすべての人達が
確かに 受け継いでゆきます
そして
あなたの人生の29分の1の時間を一緒に過ごせただけで
私は十分 幸せです