名前:無名 投稿日:2010-04-09
258 :名無し職人:2006/12 /01(金) 22:53:39
もうダメっぽいね。
あんなに大きな車とぶつかっちゃったんだもんね、しょうがないね。
私にはエアバッグが無いからあなたに大けがさせてしまうんじゃないかって
心配だったけど大丈夫みたい。良かったわ。
最後にあなたを守れたことが私の自慢だね。
あなたと最初に会ったのは雨が降っていた日の夕方だったね。
前のご主人様が新車を買ったので私は下取りに出されていたんだよね。
でも15年も前に作られたおばあさんだし人気が無い車だったから
誰にも見向きもされなかったんだよ。
取り柄と言えば車検が少し残っていたことくらいかな。
その車検が切れる頃には私の一生も終わるのね、なんて考えていたのよ。
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そうしたら、あなたと店の人が私をジーっと見て、あなたは言ったわね。「この車でいいです。」と言ったね。
値段が安かったし学生になったばかりのあなたにとっては入門としては
ちょうどいい車だと思ったんでしょうね。
でも本当に嬉しかったわ。妥協でもそんなことはどうでもいいの。
あれからあなたはとても私を大事に乗ってくれたね。
お金が無いから高いオイルも入れられないし、タイヤだって安いのしか買えなかった
けど、そんなことはどうでも良かったの。
車にとってご主人様と走っていることが一番嬉しいことなんだよ。
259 :名無し職人:2006/12/01(金) 22:54:11
いろんな所に遊びにも行ったね。
私が行ったことの無い東京へも連れていってくれたよね。
お金が無くて高速道路には乗れなかったけど、あなたと二人で
冒険しているみたいでとても楽しかった。
私はおばあさんだから高速道路はあんまり得意じゃないしね。
途中のコンビニで何回も休んで、少し寝たりしながらやっと着いたよね。
初めて走る都会の道路はとっても怖かったけど、あなたと一緒だったから安心だったよ。
車検が切れれば私はもうおしまいかな、と思っていたけどあなたは
一生懸命アルバイトをしてもう一回車検を取ってくれたよね。
私、正直覚悟してたんだ。
だからあなたが貯めたお金を私のために使ってくれると知った時は本当に
嬉しかった。
この子のために一生懸命走って、守ってあげようって決めたんだ。
そろそろお別れみたいだね。
あなたは泣いているけど、私はちっとも悲しくないよ。
あなたを守れて死ねるんだもん。
今度は人気のあるかっこいい車を買いなさいね。
だってこの5年間、女の子を私に乗せたことなんてほとんど無いもんね。
あなたも立派な社会人なんだから、いつまでも私なんかに乗っていないほうが
良かったのかもしれないよ。
でも、時々でいいから思い出してね。
あなたのために一生懸命走っていた白い小型車がいたってことを。
じゃあね、さようなら。