名前:一美 投稿日:2009-12-07
祖母はいつも
「今までの苦労が積み重なって今のお前がいるんだっちゃよ」
と言い、頭をしわくちゃの手でくしゃくしゃにする。
自分の熱中できることを探すために、本当の自分を探すために家を出た。
そのために東京に来た。
だが、一体この様はなんだ。
定職にも就かず、親に甘えて馬鹿みたいに生きている。
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これが本当の自分なんだ
そうやって自分に言い聞かせている。
情けなかった。
悔しかった。
祖父の葬式にすら出席しなかった自分に腹が立った。
ある日、俺はビルの屋上12階にいた。
靴を脱いで、靴の側に封筒を置いた。
風で飛んで行かないか不安になって封筒の上に靴を乗せた。
すると、携帯がブー、ブーと音を立てて震える。
開いてみると画面には、公衆電話と書いてあった。
躊躇しながらも電話にでる。
母からだった。
内容は祖母が倒れたとのことだった。
祖母が一緒に来てくれるんだ、なんて馬鹿なことを考えながら鉄の柵を乗り越え、日の光を浴びて温かくなったアスファルトへと着地した。
すると再び携帯が、ブー、ブーと音を立てて震えた。
今度は父の携帯からだった。
父からの電話に出ると、聞こえてきた声は祖母だった。
祖母はいつもより元気の無い声で話し始めた。
「ばぁちゃん、もう歳っちゃね」
俺は適当に相槌を打った。
「今お前がなにを考えとるのかわからんけどもな、ばぁちゃんは今のお前が大嫌いだっちゃ」
祖母はそう言い放って電話を切った。
俺はこれ以上ないほど悔しかった。
なにより悲しかった。
今まで苦言を吐かなかった祖母に最期の最期に言われたことが、堪らなく悲しかった。
だから病院に走った。
全速力で。
無我夢中になって走った。
病院に着き、祖母の病室に入ると祖母は俺に
「なんで裸足なんねぇ」
と笑いながら言ってくれた。
笑う余裕など無いはずなのに。
ばぁちゃんはまた話し始めた。
「ばぁちゃんな、今のお前が大嫌いじゃ。でもな、今のお前が本当のお前ならばぁちゃんは仕方ないと思う」
それが、ばぁちゃんが俺に言った最期の言葉だった。
祖母の葬式には出なかった。
勿論お通夜にも出席しなかった。
理由?
仕事だよ。
祖母もそれを望んでいたと思うから。
