名前:けこ 投稿日:2017-09-07
私の台所包丁は、祖母の家のものだった。
東京での独り暮らしの荷造りをしていたとき、貰ったのだ。
その他にも、布団、タオルケット、敷布団、米びつ。
東京に来て十四年経ったけれど、今も使っている。
私は祖母が大好きだ。
私の母は人格障害者で、
「お前の貯金をよこさないと自殺する」
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なんて言い出す人だ。
祖母は母の代わりに私の食事を作ってくれた。
かわいいねえと何度も頭を撫でてくれた。
昔のことを思い出しては泣きそうになる。
私は年に二回、
祖母のいるグループホームに行く。
盆と正月、飛行機に乗って。
祖母の認知症は緩やかに進行した。
以前は私を忘れてしまっただけだったけれど、
今は言葉を発することができない。
そのことが寂しくて、
グループホームを出たあとはいつも涙を流していた。
最近、病気にかかり、食生活を見直そうと自炊を始めた。
ゴーヤがうまく切れなくて、この包丁、ずっと研いでいないと思った。
祖母がくれたときから。
東京の大学に合格し、急遽私は北海道を離れることになった。
祖母はかなり必死になって荷造りを手伝ってくれた。
18の私は、なんとかなる、という楽観しか持っていなかったが、東京での独り暮らしは、なかなかどうして過酷なものだった。
祖母は、
いつも、
私が本当に欲しいものをくれた。
それは、
今も私の生活の一部だ。