かけしない様にと・・・。」
「分かった。今度からは私たちに気兼ねすることなく、あの子に顔を
見せてやってくれ。」
「え?」
「それではこれで失礼する。」
たしかこんな会話だったと思います。
それからは毎日彼女に会えるようになりました。彼女の母親も面会時
間の終わる1時間前に病院を出て、私が彼女と会える時間には席をはず
してくれるようになりました。
彼女の話によると、父親が母親にそうするように言ったそうです。
そ して、私とのことは彼女の好きにするようにとも言ったそうです。
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278 名前: のら猫 投稿日: 02/04/30 06:34 ID:AcfeALCBでも、それから1週間ほどのことでした。
夜自分の部屋で寝ていると、彼女の父親から電話がかかってきました。
低く落ち着いた声で、今から会いに来てやってくれ、そのかわり覚悟
して来てくれと、彼女の父親ははっきりとした口調でそう言いました。
私は、大急ぎで彼女の病室に行きました。
看護婦や医師に囲まれたベッドの中で、うつろな目をした彼女が居ま
した。薬の影響ですっかり髪の毛は抜け落ち、頬はこけ、青白い手を医
師が掴み、脈を取っている様子でした。
夕方彼女と会った時、確かに衰弱は進んでいましたが、それでも話が
できる程度の元気があったはずでした。その変わり果てた彼女の様子に、
私は身動きも出来ませんでした。
一歩下がった所で、目を真っ赤に腫らして立っている彼女の両親が居
ました。私を見た彼女の父親は、黙って母親を促しました。彼女の母親
は私の手を取ると、この子の手を握ってあげて、と言いながら、彼女の
やせ細った手を取り私に握らせました。
そのとき、うつろだった彼女の目に一瞬光が見えた気がしました。
そして、彼女はゆっくり口を動かしました。ほんの僅かでしたが、はっ
きり動かしていました。私は急いで彼女の口元に耳をあてがいました。
微かでしたが、彼女は、ごめんなさい、と繰り返して言っていました。
私は涙が止まらず、そして何もいえず、ただその子の手を握り返し、
その子の言葉を聞き逃すまいと必死で彼女の口に耳を当てていました。
とにかく、頭が真っ白で、どうして良いのか分からず、ただ手を握り
返す事しかできませんでした。
突然私は肩をたたかれ、我に返りました。振り向くと彼女の父親が私
の肩を掴んでいました。そして彼女を真っ赤に腫れた目で見つめていま
した。私はその手を取り、彼女の手を握らせようとしましたが、彼女の
父親は首を横に振り、君が握ってやってくれ、私はここで良い、と言い
ました。
それからどれくらいの時間がたったのか、私には分かりません。しか
し、それまで僅かにごめんなさいとつぶやき続けていた彼女が、一言、
別の言葉をつぶやきました。
「○○ちゃん(私の名前)ありがとね。すごくしあわせだったよ。」
確かにそう私には聞こえました。
それが彼女の最後の言葉でした。
私はあわてて彼女の両親の手を取り、彼女の手を握らせました。気丈
だったご両親でしたが、彼女の手を握った途端、涙を流しました。
それからどのくらいの時間がたったのか分かりませんでしたが、突然
それまで不規則に響いていた電子音が、連続音に変わりました。
医師が彼女の目に懐中電灯を当て、ゆっくり、ご臨終です、と言いました。
その言葉を聞いて、彼女の母親が声を上げて泣き始めました。
気がつくと私も、そして彼女の父親も声を上げて泣いていました。握りし
めていた彼女の手が、ゆっくり確実に冷たくなっていくのを感じました。
279 名前: のら猫 投稿日: 02/04/30 06:35 ID:AcfeALCB
次の日、彼女の父親から喪服を渡されました。そして、二通の手紙を
手渡され、今夜は君もあの子のそばにいてやってくれと言われました。
私はひとまず部屋に戻りました。部屋に入った私はしばらく力無く部
屋に座り込んでいました。ふと手に握らされた手紙を思い出し、二通の
手紙を見ました。
一通は彼女の父親からでした。中を見ると一枚の便せ
んにしっかりとした字で、すまなかった、そしてありがとう、その二言
が書いてありました。もう一通は彼女の字で、私に当てた手紙でした。
中には、私と出会った頃から彼女が入院するまでの事が、びっしり書き
込まれていました。そしてその内容一つ一つに、自分がどれだけ幸せだっ
たか、どれだけ救われたかが書かれていました。その手紙を読みながら、
私はまた声を上げて泣きました。その手紙の最後には、こう書かれてい
ました。
私が居なくなっても、○○ちゃんは元気でいてね。私のすごくすごく
大切な人だから、沢山幸せになってね。新しい彼女見つけなきゃだめだ
よ。私のこと好きなら、○○ちゃん、絶対に幸せになってね。約束。
私はシャワーを浴びながら、声を上げて泣きました。いつまでもシャ
ワーを浴びながら泣き続けていました。
シャワーを出た私は、彼女の父親から受け取った喪服を着ました。なぜか私にぴったりのサイズでした。
まだ涙は乾いていませんでしたが、喪服に着替えた私は、彼女の家に
行きました。彼女の家には少しずつ親類や知り合いの方々が集まって来